第36章 リゾルートに揺るがぬ決意【壊玉】
正体不明のアンノウンは【Q】の残党なのだろうか。
もし【盤星教】の差金なら、呪詛師を雇ったことになる。金さえ積めば腕の立つ呪詛師が雇えるだろう。それを考えると厄介だ。
やがて、夏油の行く先を作務衣を着た老人が塞いだ。
「おおっ、その制服は――呪術高専だな」
呪符から一つ足の小柄な異形を前後に二体呼び出す。式神使いか。
高専の制服を見て自分の前後に式神を呼び出したのは、多対一を想定しての配置。戦い慣れている。
夏油も傘を被った呪霊を二体呼び出した。
「媒介なしで呼び出すとは……【呪霊操術】か!」
「ご名答。さすが、長生きしてるだけはあるね」
「いいや。そう長生きするもんじゃないぞ。生きると生きるだけ金がかかる」
術式はこちらが格上。勝てない相手ではない。
不意にこちらを窺う視線に、夏油は気づいた。
【呪霊操術】とはいえ、基本的な戦い方は式神使いと変わらない。後方から指示を出し、自分は攻撃されないように立ち回る―― 一般的には。
だったら……と、夏油はわざと身を引くそぶりを見せた。すると、老人はニヤリと笑う。
おそらく、頭の中で戦術を組み立てているのだろう。
わざと身を引いたことで、こちらが近接戦闘が不得手であると考えたはず。
そして、相手が式神使いであるため、直接攻撃がないと近接を警戒していないとも。
おそらく、この老人は体術ができるタイプの式神使いだ。
今までも、式神使いだから近接を不得手にしていると見せかけ、油断したところに直接攻撃を仕掛けて勝ってきたのだろう。
……分かりやすいな。
「なんか色々考えているみたいだけど、意味ないよ」
ワームのような呪霊を呼び出しす。廊下を埋め尽くすほどの体躯だ。そう簡単には避けられないが……。
――ガシャ――ンッ!
窓ガラスを割って、老人が短刀を手に夏油の背後に飛び込んでくる。ワームで死角になっているうちに手近の窓を割り、壁を伝ってやって来たのだ。