第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「そうじゃ。そなたは妾や黒井を庇いながらよく健闘したであろう」
「俺たちが間に合わなかったら、全員 死んでたかもしれねぇけどな」
「悟」
再び夏油に窘められ、五条は肩を竦める。
そこへ、メイド服の女性も意識を取り戻した。彷徨う視線が理子を捉え、潤む。
「お嬢様、ご無事で」
――【星漿体】世話係 黒井 美里
「黒井……!」
互いに無事を確かめるべく、二人が抱きしめ合う。
「それにしても、思ってたよりアグレッシブなガキんちょだな。同化でおセンチになってんだろうから、どう気を遣うか考えてたのに」
天内 理子は、どこにでもいそうな普通の女子中学生だ。
天元と同化するということは、自分ではない存在になるということ。どれだけ耳触りのいい言葉に置き換えようと、つまりは死ぬということだろう。
だから、夜蛾も『抹消』という言葉を使った。
けれど、悲観した様子も、うじうじと悩む様子もない。ころころと表情を変え、よく笑い、よく怒る。
五条の言葉に、天内は「ふんっ」と鼻を鳴らして嗤った。
「いかにも下賤な者の考えじゃ」
「あ?」
イラっとして睨みつけるも、天内は怯むことなく得意げに口角を上げる。
「いいか。天元さまは妾で、妾は天元さまなのだ! 貴様のように『同化』を『死』と混同している輩がおるが、それは大きな間違いじゃ」
はいはい、そうなのね。
一気に興味を失くすも、天内の話は続く。
「同化により妾は天元さまになるが、天元さまも妾となる! 妾の意思! 心! 魂は同化後も生き続け……って、聞けぇ!」
興味なさすぎて夏油と携帯の待ち受けの話をしていたら怒鳴られた。
「黒井、あやつら不敬じゃ! あんなの要らん!」
「お嬢様、何とお労(いたわ)しい」
「星也、呼ぶならせめてもっとマシなのを呼べ!」
「理子さま、我慢してください。強さ“だけ”は保証します。僕も我慢するので」
「星也、色々と本音が出てるわよ」
コントのようなやり取りにニヤリとし、五条は夏油と聞こえるようにヒソヒソと笑う。