第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「うっぜぇなぁ。人を無職みたいに言いやがって」
実際 無職だろうが、お前は。
こちらは仲介役として、依頼者に進捗や担当者の仕事ぶりを報告しなければならないのだ。
「相手は五条家の坊(ぼん)だぞ。のこのこ出て行ったところでなんもできねぇさ。まずは、バカ共を使って削る。テメェこそ仕事しろよ」
「したわ、ボケ。何 考えてんだ。手付金 全額手放すなんて」
盤星教から伏黒 甚爾への手付金は三〇〇〇万。
この男はネット上で、その手付金を懸賞金とし、呪詛師たちへ【星漿体】暗殺を募ったのだ。
万が一にでも【星漿体】が成功すれば手付金は残らない。それどころか、成功報酬もなくなる。
「だから、“削り”だよ」
そう言って、甚爾は舟券を片手にニヤリと口角を上げる。
──『先頭6番 波多野 ゴールイン! 1番 洞口 ゴールイン!』
どうやら外したらしく、甚爾は低く舌打ちして舟券を握りつぶした。
「オメェは楽して稼ぐの向いてねぇよ」
そう言って、孔は彼の肩をポンポンと慰めるように叩き、立ち上がる。
「頼むぜ、“術師殺し”」
そう──御三家の一角、禪院の出身でありながら“術師殺し”。それが甚爾の通り名だ。
立ち去ろうとして、不意に孔は「あぁ、そうだ」と振り返る。
「恵は元気か?」
「……誰だっけ?」
何となく思い出して、世間話感覚で何度か見かけたことのある彼の息子について尋ねると、甚爾は不機嫌そうにため息を吐いた。
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