第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「くそっ!」
苛立たしげに、コクーンは黒髪の少女を蹴飛ばした。
「きゃあっ⁉︎」
「姉さん!」
すると、さっきまで無表情だった少年──星也の顔が怒りに歪む。
「よくも、姉さんを……っ!」
「待つんだ。せっかく応援に来たんだから、カッコつけさせてくれ」
一つウインクして見せて、夏油は穴の空いた場所からビルへ降り立った。
「【星漿体】を渡せ。殺すぞ」
「聞こえないな。もっと近くで喋ってくれ」
耳に手をかざして挑発すると、コクーンは怒りに顔を赤く染める。
「舐めやがって……! って、え……?」
──【呪霊操術】
決着がつくのは早かった。
こちらが隙を見せればまんまと乗ってきたのだ。夏油がその背後に呪霊を呼び出し、捕えさせて終わりである。
【星漿体】とメイド服の女性(黒井という人物だろう)は、巻き込まれないよう星也と星良が守っていた。
ほぼ一般人の二人を気にかけなくてよかったのも、決着が早かった理由の一つである。
『チューしよ……チュー』
捕えられたコクーンは、迫る呪霊の顔を押し返し、ぎりぎりのところでキスから逃れていた。
夏油は戦闘の巻き添えを逃れたコの字に配置されたソファに腰をかけ、隣に星也と星良、向かいに気絶した【星漿体】の少女とメイド服の女性を寝かせてある。
「助かりました。守りながらの戦闘はどうも難しくて」
「相手は二人だし、仕方ないよ。あたしが一人で戦うんじゃ火力不足だし、守ることすらできなくて……ごめんね、足引っ張っちゃって。いつも星也に任せっきりだね」
別に、と少年は首を振る。
姉さんと呼んでいたはずだ。
顔立ちも似ているし、おそらく姉弟。