第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
ビルから落ちる人間に気づき、夏油はすぐに【呪霊操術】でマンタのような呪霊を呼び、上空へ飛び上がった。
もしも【星漿体】だったらマズイ。いや、一般人だったとしても、死なせるわけにはいかない。
しかし、それより早く落下した人物──ヘアバンドをつけたセーラー服の少女を追いかけて落ちてくる者がいた。
夏油は内心で舌打ちする。この高さから追いかけて、どう助けるつもりなのか。こちらの手間を増やしやがって。だが──……。
「【謹請現示(きんせいげんじ)──太裳】」
追いかけてきていたのは、年端もいかない黒髪の少年だった。おそらく、十歳前後。
静かな声音で翡翠色の巨大な文鳥を呼んだ少年はその背に乗り、落下する少女の身体を危なげなく受け止めた。
「ちっ! しぶとい奴め!」
──【Q】戦闘要員 コクーン
黒いマスクに白の軍服を着た男がビルの外を見て悪態を吐く。
「君、【星漿体】を守っている術師かい?」
少年に声をかけると、無機質な夜色の瞳が夏油を捉えた。
「はい。高専の増援ですね。ありがとうございます」
──三級呪術師 神ノ原 星也
なるほど、と少年が受け止めた少女を見る。ではやはり、彼女が【星漿体】。普通の中学生にしか見えないが。
それに少年も……まさかこんな幼い子どもが守っていたとは思わなかった。
加えて、子どもとは思えない落ち着きよう、理解力、状況判断力。増援の要請も彼らからきたものだ。
見たところ、二人に大きな傷はない。なかなかの実力者だな。
「星也! 無事⁉︎ 理子さまは⁉︎」
──四級呪術師 神ノ原 星良
「問題ない。黒井さんは?」
「気絶してるけど、大丈夫!」
もう一人、肩につかないくらいの黒髪の少女が顔を出す。