第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「でもさー」
その後、すぐに学校を出た五条は、【星漿体】の少女がいるというビルに向かう道すがら、ジュースを買っていた。
「呪詛師集団の【Q】は分かるけど、【盤星教】はなんでガキんちょを殺したいわけ?」
「崇拝しているのは純粋な天元様だ。【星漿体】……つまりは不純物が混ざるのが許せないのさ」
なるほどね、とプルタブを起こし、ジュースを飲みながら夏油の話を聞く。
「だが、【盤星教】は非術師の集団だ。特段 気にすることはない」
警戒するべきは、呪詛師集団である【Q】の方か。それなりの戦闘経験もあるだろうし、殺しに躊躇いもないだろう。
「まぁ、大丈夫でしょ。俺たち最強だし。だから天元様も俺たちを指名……何?」
複雑な表情でこちらを見てくる夏油に、五条も眉を寄せた。
「いや……悟。前から思っていたんだが、一人称『俺』はやめた方がいい。特に目上の人の前ではね。天元様に会うかもしれないわけだし。『私』、最低でも『僕』にしな」
飲み終わった空き缶を呪術で潰し、五条は「あぁ?」と夏油を威嚇する。
「歳下にも怖がられにくい」
「はっ、嫌なこった」
なぜ、ガキに気を遣わなければならないのか。
「そういや、護衛についてる術師って誰だ?」
夏油のことだ。事前に資料は確認しているだろうと思ったが、彼は「さぁ」と首を傾げた。
「急かされて出てきたから、資料を見損ねてしまってね」
三級と四級だったか。なぜそんな低い等級の術師に護衛をさせているのか。
世界規模の重要人物。
その護衛なら一級以上の案件だろう。
「私も気になって聞いてみたんだが、三ヶ月程前に呪霊に襲われそうになった【星漿体】を助け、そのまま護衛としてスカウトしたらしい。なんでも、【星漿体】のお気に入りだとか」
「ガキかって……ガキだったな」
気に入る気に入らないで身の丈に合わない任務につかされて、ご苦労なことである。
だが、三ヶ月も護衛を務めきり、手に余ると増援を呼んだ判断は認めてもいい。
そこへ、ボンッと音を立て、ビルの上層部から煙が上がった。