第4章 決意へのマーチ【秘匿死刑】
不意に、星良が肩を叩いてきた。視線が合うと、夜色の瞳が何かを訴えてくる。
言葉はなかったが、彼女の言いたいことは分かった。
この二人とは、もしかしたらもう、会うことはないかもしれない。
「ありがとう、佐々木先輩、井口先輩。バイバイ」
ポカンとする二人に手を振ると、後ろでシュルシュルと巻物が擦れる音がした。
「――【眠】」
佐々木と井口は、糸の切れた人形のように、深い眠りへと落ちる。規則正しい寝息が耳に届き、虎杖は深く息を吐いた。
「……二人は、どうなるんスか?」
「そんなに警戒しなくても大丈夫。これまで通り、普通の生活に戻ってもらうだけよ」
ただ、と星良は続ける。
「昨夜のことは忘れてもらうわ。下手に呪霊とか呪いとか、吹聴されるとこっちも動きにくくなるから」
そう説明しながら、星良は巻物に【記憶】【改竄】と文字を書き連ねていった。
「ありがとうございました。二人にちゃんと挨拶ができて……」
すると、星良は少し背伸びをして、「いい子いい子」と虎杖の頭を撫でる。
「ちゃんと挨拶をしなきゃいけない人、まだいるでしょう?」
ニコッと微笑んだ星良の笑みは、先ほどの明るいものではなく、どこか慈愛を含んだものだった。