第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「冗談はさておき」
「冗談ですますかは俺が決めるからな」
「天元様の術式の初期化ですか?」
「何ソレ」
構わず続けた夏油に、五条は首を傾げた。
御三家・五条家の人間であるお前が知らないはずないだろ、とジト目で見られ、「なんだよ」と眉を寄せる。
天元のことは知っているが、術式の初期化の話は初耳なのだ。
「天元様は『不死』の術式を持っているが、『不老』ではない」
夜蛾の話では、ただ老いる分には問題ないが、一定 以上の老化を終えると術式が肉体を創り変えようとするらしい。
結果、『進化』──人でなくなり、より高次の存在と成る。
「じゃあ、いいじゃん」
進化の何がいけないのかと考えていると、夏油が夜蛾の話を引き継いだ。
「天元様曰く、その段階の存在には『意志』というものがないらしい。天元様が天元様でなくなってしまう」
高専各校 呪術界の拠点となる結界、多くの補助監督の結界術──それら全ては、天元によって強度を底上げしている。
天元の力添えがないと、セキュリティや任務の消化すらままならない。
こうなっては、呪術界が立ち行かなくなると言っても過言ではない。
その上、意志がない。
つまり、人を守る理由すらなくなる。
そうなれば最悪の場合──天元が人類の敵となる可能性もあるのだ。
そのため、五〇〇年に一度 【星漿体】──天元と適合する人間と同化し、肉体情報を書き換える。肉体が一新されれば術式効果も振り出しに戻る。進化は起こらない。
ここまでの夜蛾と夏油の説明に、五条は真剣な表情で「なるほど」と頷いた。