第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「呪術に理由とか責任を乗っけんのはさ、それこそ弱者がやることだろ。ポジショントークで気持ちよくなってんじゃねぇよ。反吐が出る」
不意に夏油がゆらりと立ち上がり、取り込んだ呪霊を操る術式──【呪霊操術】で背後に呪霊を呼び出した。
「外で話そうか、悟」
「寂しんぼか。一人で行けよ」
挑発しながら、五条も応戦の構えを取る──と、ガラッと教室の扉が開き、夜蛾が入って来る。
「硝子はどうした?」
「さぁ?」
「便所でしょ」
さも、『何もありません』と五条は夏油とにこやかに答えた。また怒られてはたまらない。
夜蛾の鉄拳はマジで痛い。この人の説教を食うくらいなら、呪霊と戦っている方がマシである。
「まぁいい。この任務はオマエたち二人に行ってもらう」
教卓についた夜蛾に言われ、五条と夏油は互いに視線を逸らし、渋い顔をした。
「なんだ、その面(ツラ)は」
「「いや、別に」」
先ほど意見の不一致で喧嘩しかけた──というか、すでに始まっていたけど──ばかりである。
声を揃える二人に、彼は一つ息を吐いて続けた。
「正直 荷が重いと思うが、ある術師から進言があり、天元様がお前たちをご指名した」
荷が重い──その言葉に、五条と夏油の表情が引き締まる。
「依頼は二つ」
【星漿体(せいしょうたい)】──天元様との適合者。その少女の護衛と、抹消。
「ガキんちょの護衛と抹消ォ?」
矛盾する二つの依頼に五条は聞き返すも、夜蛾はいたって真剣な表情で、「そうだ」と頷いた。
「ついにボケたか」
「春だしね。次期学長ってんで浮かれてるのさ」
隠す気のないヒソヒソ話に夜蛾が青筋を立てる。