第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「硝子! アンタはあの二人みたいになっちゃ駄目よ!」
「あはは。なりませんよ、あんなクズ共」
ギューッと家入を抱きしめながら、気になる単語に「ん?」と首を傾げる。
「……二日?」
そんなはずはない。
確かに時間はかかったが、洋館に入って調査して廊下を走って、せいぜい数時間ぐらいのはずだ。
けれど、五条はサングラスの奥で空色の瞳を瞬かせながら、訳知り顔で「あぁ」と頷いた。
「やっぱ呪霊の領域で時間がズレてた系? 珍しいけど、たまにあるよね。冥さんがいるのにおかしいと思ったんだ」
「そのようだね」
言い方がいちいち癇に障るんだよ、この男。
同意する冥冥の手前 何も言えないが。
そこで、冥冥が「それはそうと」と言って辺りをぐるりと見渡した。
「君たち、【帳】は?」
「「「…………」」」
バカなのか、コイツら。
呆れて物も言えない歌姫は、ため息を吐き、クレーターに沈んだ洋館を振り返った。
* * *
『続いて、昨日 静岡県浜松市で起きた爆発事故。原因はガス管の経年劣化⁉︎』
アナウンサーは現場のリポーターに呼びかけ、中継を繋ぐ。天井から下がるテレビを一度 見上げ、男は正座させた五条、夏油、家入に視線を戻した。
「この中に、『【帳】は自分で下ろすから』と補助監督を置き去りにした奴がいるな。そして【帳】を忘れた。名乗り出ろ」
── 一級呪術師 夜蛾 正道
「先生! 犯人 探しはやめませんか⁉︎」
両サイドの二人が自分を指さす中で、五条が手を上げる。
夜蛾は「悟だな」と頷き、ゴンッと教育的指導という名の鉄拳を五条の頭へ落としたのだった。
* * *