第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「泣いてる?」
「泣いてねぇよ! 敬語使え! 先輩だぞ!」
「泣いたら慰めてくれるかな? 是非 お願いしたいね」
半ギレで怒鳴っていると、冥冥がカツカツと足音を立てて微笑を浮かべ、五条の隣に並んだ。
えっ、さっきまで隣にいたよね。しかも無傷。
一緒に倒壊に巻き込まれたはずなのに、なんで?
「冥さんは泣かないでしょ。強いもん」
「フフフ……そう?」
楽しそうに笑う二人に、歌姫はギリギリと奥歯を噛み締める。
「五条! 私はね! 助けなんて──……」
背後から丸太のように太い寸胴の呪霊が瓦礫を押し上げて現れた。洋館に領域を展開していた呪霊だ。
ハッと背後を見れば、まず最初に胴体の人面と目が合い、それとは別に先端にある虚な呪霊の眼窩と視線が絡む。
すぐに頭を切り替えて呪術を発動しようとするが、それより速く、さらに巨大な口が洋館の呪霊をバグンッと丸呑みにした。
「飲み込むなよ。後で取り込む」
ゆったりとした足取りで抉れたクレーターへ飛び降り、髪を結い上げた、こちらも長身の青年が瓦礫を踏みしめてやって来る。
「悟。弱い者イジメはよくないよ」
──呪術高専二年 夏油 傑
「強い奴 イジメるバカがどこにいんだよ」
「君の方がナチュラルに煽っているよ、夏油君」
冥冥の指摘に「あっ」と夏油が気づいたときには、もう遅い。
遠回しに『弱い』と言われて青筋を立てていると、「歌姫センパ〜イ」と呼ばれた。
「無事ですか〜?」
──呪術高専二年 家入 硝子
「硝子!」
「心配したんですよ。二日も連絡がつかなかったから」
ヒラヒラと手を振ってくれるのは、ショートカットに泣きぼくろが特徴の少女。
心に安寧をもたらしてくれる後輩に、歌姫は感動で泣きそうになった。きっとあの男たちは敬う心を母親の腹の中に置いてきたのだ。