第35章 過ぎ去りし青春のリコルダンツァ【壊玉】
「どこまで続くのよ、この廊下──……」
──二級呪術師 庵 歌姫
大きな洋館の長い廊下。
ぼやくように呟き、巫女服の少女――歌姫は果てのない先を見つめた。
「ざっと三十分、十五キロくらい移動したかな」
── 一級呪術師 冥冥
洋館は自体は確かに大きいが、十五キロも移動して果てがないということはありえない。
あまりに同じ場所が続くため無限ループに陥っているのかと思ったが、つけたはずの印がないため、この可能性は消えた。
「となると、屋敷に巣食う呪霊のこの領域はループ構造ではなく、私たちの移動に合わせてツギハギしているのかもしれないね」
「それか果てしなくデカい領域か」
冥冥の推測に歌姫もさらに推測を重ねるも、彼女は「その可能性は低いかな」と言って壁に触れる。硬いはずの壁はぐにゃりと歪んだ。
「壁も壊せない」
デカい、広いという可能性は消えた。
頭の中を整理し、歌姫はこの領域からの脱出手段を考える。
「二手に分かれましょう」
冥冥が静かな眼差しでこちらを見た。
ツギハギ説が一番有力。
ならば、二手に分かれ、できるだけ速く、大きく、不規則に動く。呪霊の領域の構成が間に合わなければ外に出られるはずだ。
自分か冥冥、どちらかが脱出できれば、外から叩くなり応援を呼ぶなりできる。
歌姫の提案に、冥冥は「いいね」と頷いてくれた。
「じゃあ、試してみよう」
不意に、天井にピシッと亀裂が入る。見上げたときには遅かった。
──ズンッ! バキバキバキッ!
轟音を立て、弾けるようにして崩れ、瓦礫と化する洋館に、歌姫はなすすべもなく押し潰される。
「助けに来たよ〜、歌姫」
──呪術高専二年 五条 悟
どうにか瓦礫の山を避けると、歌姫がいる洋館のあった場所はクレーターとなって抉れていた。
見上げれば、長身に白髪頭の青年が、ニヤニヤとサングラスの向こうの空色の瞳を細めて見下ろしてくる。