第34章 皆と過ごすディヴェルティメントな日々
「【澱月】、お願い」
だが、【澱月】はどこか躊躇うように触手を彷徨わせる。
「【澱月】、ジュンペーを傷つけるのがイヤなんだね」
うねる触手が順平の腕や首に絡みついた。まるで労わってくれているようだ。
「大丈夫だよ、【澱月】。僕はまだまだ弱い。強くなるには、君の力が必要なんだ」
触手を撫でると、【澱月】はふわふわと宙に浮く身体を揺らす。
「ジュンペー。あの呪霊と戦ったとき、黒い光が出たの、覚えてる?」
「黒い光? そういえば……詞織ちゃんのあの不思議な空間が解けた後、【澱月】が攻撃して黒い光が……?」
気になって聞こうと思っていたが、なんだかんだタイミングを逃して、そのまま忘れてしまっていた。
「わたしが使ったのは【領域展開】。術式を付与した自分の生得領域を呪力で構築する呪術の最終奥義。環境要因によるステータスの上昇が発生して、術式の効果が跳ね上がる。加えて、領域内で発動した付与された術式は絶対に当たる」
え? 何それ、最強じゃん。
ちなみに、八十八橋のフジツボのような空間も領域だが、術式が付与されていない不完全なもの。
もしあの領域が術式の付与された【領域展開】だったら、全員 死んでいたそうだ。
「話を戻すけど、ジュンペーが発生させた黒い光――あれは【黒閃】っていう現象。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した結果、空間が歪んで呪力は黒く光る。その威力は平均で通常の2.5乗」
「2.5乗……」
確かにあのとき、【澱月】の攻撃で呪霊の腕が弾け飛んだ。
よく考えたら、相手は自分よりもずっと強い。【澱月】の攻撃が通ったとしても、あれほどの威力なわけがない。
それは、【黒閃】を発動したからだったのか。