第34章 皆と過ごすディヴェルティメントな日々
「あの、呪術の特訓につき合ってもらいたくて。神ノ原さんじゃないとダメなんだ」
「ほぅ……?」
こめかみをひくつかせる伏黒を「邪魔しちゃダメ」と部屋の中へ一歩 押しやり、詞織は「続けて」と言ってくれた。
「この前の……八十八橋で戦った特級呪霊。あの毒(?)みたいなヤツ、再現できないかなって」
自分の術式の本質は【澱月】を操ることではなく、“呪力による毒の生成”。ならば、自分が望む毒を作れるはず。
それに、前に伏黒も言っていた。
強くなりたい気持ちに式神は応えてくれる、と。
「自分が食らったヤツだから、自分が分かるし。他にも色々……【澱月】のこと、もっと知れたらって思って」
術式に対する理解、【澱月】との連携……強くなるためにやるべきことは山積みだ。
「そのために詞織の【反転術式】が必要ってわけか。だったら、家入さんに実験用のラットをもらえよ」
「えっ、そんなことできるの? でも……自分が強くなるために、動物とはいえ攻撃するのは……」
分かっている。自分が受けていた陰湿なイジメとは違うと。それでも、気が引けてしまう。
前髪で隠した右側の顔に触れて俯くと、詞織がその手にそっと手を重ねた。
「いいよ、別に。わたしも練習になるし」
「あ、ありがとう……!」
よかった、とほっと安堵していると、「ただ」と詞織が続ける。
「一つ、ずっと気になってることがある」
「なに?」
「ジュンペー、なんで名前で呼んでくれないの?」
突然 そんなことを言われ、「え?」と間の抜けた声が出た。
「メグも、ユージも、野薔薇も、五条先生も、兄さまも姉さまも、皆 名前で呼んでくれる。ショーコさんも、二年の皆も。なのに、ジュンペーだけずっと他人行儀。兄さまと姉さまのことは名前で呼んでるのに。寂しい」
表情は淡々としているのに、声の雰囲気から少し拗ねているのだと分かり、焦ってしまう。
「いや、それは……えっ⁉︎」
ゴゴゴ……と伏黒が眉間にシワを寄せて睨みつけてきていた。