第4章 決意へのマーチ【秘匿死刑】
はっきり言って、実感はなかった。
祖父が死んだことも……自分が死刑になるということも……。
虎杖 悠仁は教えられた病室を覗き、開きっぱなしの扉をノックして来客を告げた。
中にいた眼鏡の女子生徒――佐々木が虎杖に気づく。
「虎杖……」
憔悴しきっている佐々木は、ベッドで眠る体格のいい男子生徒――井口へ目を向けた。頭には包帯を巻き、顔にもガーゼで手当してある。
「井口先輩、どんな具合っスか?」
「大丈夫……って、お医者さんは言ってたけど、まだ意識が戻ってないの」
二人は、入学してすぐにオカルト研究会の先輩である。
杉沢第三高校は全生徒入部制の学校だったのだが、入院していた祖父の見舞いのために、五時には帰りたい。
そんな思惑で入部したオカルト研究会だが、先輩たちとの活動は楽しくて、虎杖は気に入っていた。
「……私のせいなんだ。私が夜の学校なんて誘ったから……」
「大丈夫。すぐに井口先輩を治してくれる人が来てくれるから……」
コンコンッと来客を告げるノック音。振り返ると、溌溂とした夜色の瞳を持つ女性が立っていた。
沈んだ空気を払拭するような、明るい雰囲気の女性だ。肩にかかる黒髪をさらりと揺らし、彼女は病室へ入って来た。
「任務が早く片づいて休めると思ってたのに、今度は仙台って……どれだけ人手不足なんだか」
さて、と一息吐いて、彼女は病室をぐるりと見渡す。虎杖、佐々木、井口と視界に入れ、ニコリと笑んだ。
「初めまして。一級呪術師の神ノ原 星良よ」
「あ……は、はい……」
佐々木が困惑した様子で頷く。
神ノ原……詞織と同じ名字だ。
もしかしたら、血縁者なのだろうか。瞳や髪の色、面差しもどことなく似ている。
星良は止める間もなく井口に施された包帯やガーゼなどを外し、腰につけたベルトから小さな巻物と筆を取り出した。