第32章 朝焼けと夕焼けのラメンタービレ【共犯/そういうこと】
「これが何を意味するか分かるかな? Mr.星也」
「意味も何も、それが全てじゃないのか?」
逆に聞くが、それ以外に理由があるのか?
虎杖が推薦を受ける理由なんてそれしかないだろう。
「青い未来……つまり!」
バコーンッと、今度は東堂のスマッシュが決まった。
「東堂 葵と虎杖 悠仁が、共に任務へと立ち向かう青い未来が存在しているということ!」
東堂に得点を入れながら、垂水が「ん?」首を傾げる。
「いや、それはないでしょ」
「皆まで言うな。同行する一級術師が俺とは限らない。そう言いたいんだろう」
だが、と東堂は拳を握り、宙を仰いだ。
「これは確信だ。もげた林檎が地に落ちるが如く! 俺たちは惹かれ合う! そう、まさに『運命(ディスティニー)』‼」
悠仁、ヤバい奴に好かれているな。
なんだか、妙な執着までされて。
「いや、だから」
「被推薦者が同行するのは、推薦者以外の術師。推薦したのは僕たちだから、悠仁に同行するのは僕たち以外の術師だ」
ショックのあまり、東堂の顔から能面のように表情が消えた。
「推薦するなら吉野クンじゃなくて詞織ちゃんがよかったけど、推薦者じゃないから一緒に任務に行ける。逆にラッキーだったな」
「まだ行けると決まったわけじゃないだろう」
詞織も変なのに好かれて、恵も大変だ。
ラケットを置き、ポロシャツのボタンを全て外して熱を逃がす。
「じゃあ、お疲れ。任務で会うことがないことを祈るよ」
こんな妙な連中、できれば今後 関わり合いたくない。
部屋を出ようとして、「あと」と不意に足を止めて星也は振り返った。
「垂水くんだったね。あまり詞織にちょっかいを出さないでもらえないか。恵以外に詞織を任せる気はないんだ。諦めて他を当たってくれ」
「へぇ」
不愉快そうに眉を顰めるでも、怒りに頬を引きつらせるでも、悲し気に目を細めるでもなく。
彼は楽しそうに笑みを浮かべ、こちらへ歩み寄ってきた。