第32章 朝焼けと夕焼けのラメンタービレ【共犯/そういうこと】
「じゃあ、お兄さんが相手してくれる? ボクさ、女の子の方が好きだけど、男もいけるんだ。その澄ました顔、歪ませて泣かせてみたいな」
なるほど。変人の友だちは変人というわけか。
五条はもはや別格だが、目の前の二人も自分が出会った中でトップクラスの変わり者である。
「遠慮するよ。姉の前じゃないと泣けないんでね」
「ふぅん。シスコンなんだ。可愛いね」
頬に手を伸ばそうとする垂水の手を振り払う。
「君、一級だったね。特級を祓った経験も、【黒閃】の経験もある。強いね。でも、僕より弱い。その程度で、僕を好きにできると思っているなんて……」
――舐めないでもらえるかな。
低い声で脅して、軽く睨みつけた。
本気にしたわけではないし、舐められて不愉快に感じたわけでもない。
ただ、妹にちょっかいを出しているのも、伏黒から詞織を奪おうとしているのも気に入らなかった。
あの二人には、幸せでいてほしい。
「Mr.星也。聞いていなかったな。好きな女のタイプを」
東堂の問いに、未だ目を覚まさない津美紀の姿が過ぎった。
――「……星也さんのことが好きです」
「ないよ、そんなもの」
自分には家族がいれば、他に何もいらない。
家族愛さえあれば、それ以外の愛情なんて――……。
やることは終わり、星也はその場を後にした。
「好きなタイプはない、か。今までで一番 最低な答えだ。あれで特級か。つまらん」
星也の背中を見送り、東堂は悲しそうに眉を下げる。
「最高。すげぇ ゾクゾクした。欲しいな、あの人」
「つくづく趣味が合わんな、オマエとは」
それでも、この男をマシだと表現しているのは、己の好きなタイプに対する飽くなき執着である。
高専に入学してすぐに好きなタイプを聞き、そのときはつまらんと評したが、この男は「ふざけるな」とブチギレて攻撃してきた。
そのまま乱闘騒ぎを起こし、教師からこっぴどく怒られたが、それ以来、垂水とつるむようになったのだ。
かといって、コイツの性癖を理解できるかどうかは別の話である。
興奮に顔を紅潮させる垂水に、東堂はため息を一つ吐いた。