第32章 朝焼けと夕焼けのラメンタービレ【共犯/そういうこと】
呪術高専 東京校――夕日の差し込む廊下に、『ケヒケヒッ』と耳障りな嘲笑が響いていた。
『オマエのせいだ。オマエが俺を取り込んだ。目覚めたんだよ。切り分けた俺の魂たちが』
虎杖の頬に口を出現させ、宿儺は嗤う。
『大勢の、ケヒッヒヒッ! 人間を助けるか。小僧! オマエがいるから! 人が死ぬんだよッ!』
黙って聞いていた虎杖は、不意に足を止めた。
「おい。それ、伏黒と詞織に言うなよ」
――「自分が助けた人間が将来 人を殺したらどうする?」
少年院で、伏黒が言っていた言葉。
五条が助けてくれたのは、虎杖の存在が有用だと判断したからだと聞かされている。
それとは別に、伏黒と詞織が口添えしてくれたとも。
自分が【宿儺の指】を食べたせいで、今回の事件は起こった。
“指”を食べたことを後悔したことはない……というのは、嘘だ。
それでも、あのときはそれが最善で、同じことが起こったなら、自分はまた“指”を食べて二人を助けようとするだろう。
けれど、もし自分が“指”を食べたことが原因で今回の事件が起こって、今後もそれが増え続けていくと知ったら……伏黒も詞織も、自分を責めるに違いない。
自分で選んでやったことだ。その責任は背負う。
あの二人は関係ない。
だから――……。
「言うなよ」
低い声音で虎杖は宿儺を黙らせ、廊下を歩いた。
* * *