第32章 朝焼けと夕焼けのラメンタービレ【共犯/そういうこと】
呪術高専 東京校――日暮れのグラウンドの水道前に、伏黒は詞織、釘崎、順平を呼んだ。
「きょう、しん……?」
「そう、『共振』だ」
首を傾げる順平に、伏黒は頷く。
「始まりが六月、ユージが“指”を食べちゃったのも六月。確かに辻褄は合う」
「つまり、力を抑えていた【宿儺の指】が、受肉によって呪力を解放したってわけね。もしそれが本当なら、八十八橋だけじゃなく、他にも――……」
詞織と釘崎も神妙な顔つきで頷いた。
そう、釘崎の言う通り。
当然、他の【宿儺の指】にも影響が出ていることだろう。
それが原因の事件だって……今も起きているかもしれないし、今後 起きる可能性も充分にある。
「だから、虎杖に『共振』の話はするな」
「……それって確定なの?」
釘崎の問いに、伏黒は「ほぼな」と返す。
「今回はもう終わった案件だ。気づく可能性があるとすれば、俺たちか新田さんくらいだろ。だから、オマエらには確信を持たれる前に話しておく」
虎杖――宿儺の受肉はキッカケにすぎない。八十八橋の呪殺はいつ始まってもおかしくなかった。
「ユージが指を食べたのは、わたしとメグを助けるため。でも、そんなことになったのは、わたしが襲撃に気づけなかったからで……」
「違う。“俺たち”が弱かったからだ」
あまりに大きすぎる責任――それも、虎杖に背負わせてしまった。
「でも、アイツはそれで納得しねぇだろ。だから、言うな」
「泣くな」という意味も込めて、伏黒は詞織の目元に触れる。
「分かった。言わないよ。虎杖くんが背負うことじゃない」
「あたしも。レディの気遣いナメんな」
「もちろん、わたしも。ユージが悪くないことは、わたしとメグが一番 分かってる」
どこか沈んだような空気。それでも、三人は気遣うような笑顔を見せた。
口留めなんて、必要なかったかもしれない。
きっとこれは、虎杖の人間性が積み上げてきた信頼なのだろう。
三人に見えないように、伏黒もフッと微かに笑んだ。
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