第32章 朝焼けと夕焼けのラメンタービレ【共犯/そういうこと】
「ま、アンタらみたいに、自分で椅子持って来て座る奴もいるけどね。フォローするわけじゃないけど、呪霊か呪詛師か気にしてる余裕なかったじゃん」
仮に呪詛師だとして、あのレベルの術師を長時間拘束する術はない。
それは、順平にも分かっている。
「……でも、アイツ……泣いたんだよ。目の前で弟が死んで」
虎杖のその言葉も、唇も、手も、震えていた。
「……そっ、か……」
これが、『人を殺す』ということ。
誰かの命を奪うということ。
この先、母を殺した呪詛師を見つけて、自分は今回のように、殺すことができるのだろうか。
アイツらは悪い奴だった。
放っておけば、間違いなく大勢の人たちを殺す。
でも……。
「俺は自分が……釘崎たちが助かって……生きてて嬉しい。ホッとしてる。それでも、俺が殺した命の中に、涙はあったんだなって……それだけ」
順平の胸に、虎杖の言葉が重くのしかかる。
「……じゃあ、共犯ね。あたしたち」
「うん。誰か一人のせいじゃない。わたしたち四人で、やったことだから」
「そうだね。共犯……」
順平は少し振り返る。
暗い森の、誰にも気づかれない場所。
高専の関係者が引き取りにくるまでの間、壊相と血塗を共に――虎杖に言われて隣り合わせに眠らせたのだった。
* * *