第32章 朝焼けと夕焼けのラメンタービレ【共犯/そういうこと】
「俺は……前に一度。いや、アレを一度って言うのはズルか。三人だ」
三人――初めて虎杖に聞いたときは、『殺したことはない』と言っていた。
ならば、虎杖が殺してしまった人間というのは、きっと自分が通っていた里桜高校で、真人と戦ったとき……かもしれない。
そう思うと、なんとなく自責の念が生まれてくる。
「あたしたちより、アンタの方が大丈夫じゃないでしょ」
釘崎に指摘され、虎杖はどこか困ったように眉を下げた。
「わたしは初めてだったけど、ユージやジュンペーほど気にしてない。受肉された人間を戻すことはできない。だったら、わたしにできることは、被害が広がらないうちに殺すこと。これが受肉された人と、これから殺されるかもしれない人たちにできる、わたしの最善」
詞織のように、割り切ることができれば楽なんだろうな。
けれど、詞織の言っていることも理解はできる。
理想は『助けたい』。
現実は『助けられない』。
そして、『放っておけば被害者が増える』。
だったら、自分たちにできるのは、確かに殺すことだ。
「あたしもぶっちゃけなんともない。術師やってりゃ、こういうこともあんでしょ」
伏黒ではないが、結局 助けられる人間には限りがある。
そう、釘崎は続けた。
「あたしの人生の席……っていうか、そこに座ってない人間に、あたしの心をどうこうされたくないのよね」
……冷たい?
少し茶化すように聞いてくる釘崎に、詞織が静かに首を左右に振った。