第31章 もっと強くフェローチェに【起首雷同】
――明治の初め。
呪霊を孕む特異体質の娘がいた。
呪霊と人間の混血。
異形の子。
身に覚えのない懐妊に始まり、親類縁者からの風当たりは常軌を逸し、彼女は子の亡骸を抱え、山向こうの寺へと駆け込む。
その寺は呪術師が開いたものだったが、その時点で彼女の運は尽きてしまう。
――加茂 憲倫(のりとし)
多くの呪術文化財と共に、史上最悪の呪術師として名を残す――御三家の汚点。
彼の知的好奇心は呪霊と人間の間に生まれた子の虜となる。
九度の懐妊――九度の堕胎。
それらがどのように行われ、その後にどうなってしまったのか。
一切の記録は破棄されている。
【呪胎九相図(じゅたいくそうず)―― 一番~三番】。
特級に分類されるほどの呪物。
その呪力の起源は、母の恨みか、それとも――……。
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壊相に母の記憶はない。
そして、人間にも術師にも、特段 怨みがあるわけではない。
一五〇年、お互いの存在だけを頼りに、封印を保ってきた。
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『呪霊側(アイツら)につくぞ』
兄はそう言った。
『大丈夫かな? アイツら、胡散臭いよ、兄さん』
壊相の言葉に、兄は重々しく息を吐く。
『呪霊が描く未来の方が、俺たちにとって都合がいい。ただそれだけのことだ。受肉の恩は忘れろ』
兄の瞳が、弟である壊相と血塗に静かに注がれた。
『いいか、弟たちよ。壊相は血塗のために、血塗は俺のために、俺は壊相のために生きる』
――俺たちは三人で一つだ。
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