第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「【共鳴して】」
『【螺旋を描いて】』
「【歌が】」
『【夜に】』
「『――【弾ける】』」
『ウァ、アァァァアァァァッ⁉ なんだぁ、これぇ⁉ 頭が痛い! 割れるっ⁉ やめろ! やめろォォッ――‼』
二人の絡み合う旋律に、血塗が頭を抱えて悲鳴を上げる。
環境要因によるステータスの上昇が発生し、【歌楽具現術】の効果が跳ね上っていた。
それに、必中効果の術式によって、瞬き一つ、指先の動き一つの全ての動作、呼吸、空気の振動までもが、この空間では旋律となって対象の脳を蝕む。
「【砕け散った悪夢が】」
『【静寂(しじま)に降り注ぐ】』
「【胸を貫く旋律が 今――】」
暗く切ない、胸に迫る歌は止まらない。
螺旋を描くような二人の旋律は、絶え間なく血塗を襲った。
「【闇に開く空に】」
『【月は震えて】』
「【伸ばす指に 光が掠める】」
闇夜に浮かぶ双子月の影に、赤い星が瞬き――流れる。その振動すら確かに美しい旋律を鳴らした。
「【あなたの】」
『【歌が】』
「【響き】」
『【溢れ】』
「【弾け】」
『【連なり】』
「『【――永遠に繰り返す】』」
――ヒュンッ! ドスッ!
赤い星は涙のように流れ落ち、血塗を貫く。瞬間、炎が轟音を立てて爆ぜ、闇を塗り潰した。
闇が開け、双子の月が消え、枝垂れ桜も泉も楼閣も消え、ずっと歌に震えていた空間も消え――……薄暗い森が戻る。
「あ――……」
腕から花の痕が消えた。血塗が術式を保てなくなったのだ。
このとき、順平には見えた。
先ほどの圧倒的な呪力を感じていたからか――分かる。
感覚が凪いでいる。
意識が研ぎ澄まされていく。
痛みに蹲る血塗の、その震える身体の動きが、肉の収縮まで、はっきり見える。