第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「いけ、【澱月】‼︎」
そして――……。
――【黒閃】。
それは、打撃との誤差0.000001秒以内に衝突し、黒き閃光を放った。
「【黒閃】⁉︎」
【澱月】の触手に貫かれ、血塗の腕が弾け飛ぶ。
『アァァァアァァァッ――――ッ⁉ 兄者ッ! 兄者ァ‼︎』
血塗がズルリズルリと身体を動かし、助けを求めるように彼方へと逃げていく。
「待てッ!」
「うぁ……っ、はぁ……ッ!」
追いかけようとする順平が、呻き声を上げて倒れた詞織に気づき、駆け寄ってきた。
「神ノ原さんッ!」
「はぁ……はぁ……っ」
【領域展開】――急激に呪力を消費した反動。
熱が引いて、冷たくなっているのが自分でも分かる。
「大丈夫? 少し休んだ方が……」
「ヘーキ……【君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな】」
【反転術式】で自分と順平の傷を治療する。
だが、まだ完全習得とは言えず、細かな傷は消えたものの、血塗の攻撃によって爛れた傷は薄くなったが、消えることはなかった。
「ごめんなさい、ちゃんと治してあげられなくて……あとは、高専に戻ってショーコさんに治してもらおう」
詩音のおかげで呪力はすぐに回復できる。
どちらかといえば、肉体的疲労の方が深刻だ。
それでも、身体は動く。
「あの呪霊を追う。逃がさない」
「分かった。急ごう」
血塗を追いかけて、詞織たちは森から車道へ出る道を走った。