第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「……――【泡沫の 夢幻をてらす ふたごづき いとしき きみの 影はゆらいで……】」
詞織は両手を組み、指先を開いて印を結んだ。
――【領域展開 夢幻泡影之揺籠(むげんほうようのゆりかご)】
ザァ…ッと音を立て、薄暗い森が深い夜に彩られた。空には双子の月が浮かんでいる。
浅い泉、周囲にはシャボン玉のようなものが漂い、汀には枝垂れ桜が水面に影を落としていた。
そして、聳え立つ高い楼閣。
ふわりと、楼閣の欄干を飛び降り、赤と黒のゴシックロリータを着た、詞織と同じ面差しを持つ少女が飛び降りた。トンッと泉が静かに波紋を広げる。
『ようこそ。あたしたちの世界へ。歓迎はしないわ』
――だから、早く終わらせましょう。
艶やかな笑みを浮かべる紅い瞳の少女――詩音に、順平と血塗が首を傾げた。
『お、おんなじオンナが、ふたり……?』
「神ノ原、さん……?」
詞織はただ黙って息を吸い込む。その呼気すら、腕の一振り、指の動き一つが旋律を伴い、空間を振動させる。
「なんだ、これ……歌、が……」
戸惑った様子の順平に、詞織には答える余裕がなかった。
できた――今までで一番 完成度が高い。
けど、それも詩音が手伝ってくれているから。
【領域展開】は、自身の【生得領域】に術式を付与させる奥義。詩音が出てくることは分かっていた。
だから、兄は言ったのだ。
――「頼るのと力を借りるのは、同じなようで少し違う」
ねぇ、詩音。
わたし、あなたに頼ってばかりだった。
兄さまの言うとおり。
どんなに怖くても、死にそうになっても。
あなたがどうにかしてくれるって思っていた。
けど、このままじゃ強くなれない。
それはイヤ。
ワガママだって分かってる。
でもね、まだわたし一人じゃ力が足りないの。
だから……少しだけ、力を貸して。
まるで応えるように、詩音が楽しそうに踊りながら、手を広げる。
笑い声、泉の水が跳ねる音すら旋律となって、血塗を切り裂いた。
『ガァァアァァッ⁉︎』