第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
『神ノ原 星也! あなた、あたしのこと舐めてるの⁉︎ バカにしないでよ! 相手が誰だろうと関係ないわ! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! あたしは弱くない! あたしの想いが誰かに負けるわけない! あたしは……!』
「詩音! 黙って‼︎」
わずかに意識を乗っ取られるも、詞織はすぐにそれを取り返した。
頭の中で、『どうして?』『なんで?』と嘆く声が聞こえるが、それに答えられるほど余裕はない。
「詞織、強くなりたいと言ったね? けど、詩音とこのままの関係を続ければ、そのうち吉野君にも追い越されて、君は置いてけぼりをくらうことになる」
兄の手のひらが頭を撫でた。名前を呼ばれ、躊躇いがちに見上げる。
「……今、裏で何かが動いている。だから、僕の持つ詩音の鎖も君に預けるよ。きっと、詩音の本当の力が必要なときが来るだろう。でも、よく考えるんだ。本当にそれしか最善の方法はないのか」
グッと歯を食いしばり、泣きそうになりながらも涙を堪え、詞織は星也を見上げた。
そんな妹の表情に、星也は微かに笑みを浮かべる。
「詩音に頼らなくても戦える術を教えたはずだよ。何度も練習しただろう?」
「あれだって詩音が……」
「頼るのと力を借りるのは、同じなようで少し違う」
「でも……まだ上手くできない」
「それは、君が自分を信じきれていないからだ。確かに、君の元々の呪力は弱い。けど、何度も修練と実戦を繰り返して、詞織は充分 強くなった。詩音に頼らなくても戦えるはずだよ」
詩音と閉じ込められて、死を待つだけだったあの頃とは、もはや他人と言ってもいい。
「……ほんと?」
「あぁ、本当だよ。もっと、自分を信じて。自分を過小評価して戦局を見誤る。それが詞織の一番の課題だ」
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