第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
頭の中で詩音の憎悪に満ちた【呪い】の言葉が聞こえる。
「詩音……」
でも……。
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「詩音に頼るのはやめるんだ」
兄である星也の言葉に、詞織はドキリと身をこわばらせた。
「少年院で詩音を呼ぼうとして、交流会では実際に呼んでいる。それも、“縛り”まで解放して」
「負けたく、なかった、から……」
尻すぼみに声が小さくなったのは、どこか後ろめたさがあったからだ。
「それに、詩音の感情も安定してる。前みたいに、手当たり次第に人を攻撃しようとしない。だから……」
「安定している、か。確かに、僕にもそう見えるよ。たぶん、恵の影響だろうな」
伏黒と恋人同士になって、詩音は怒り狂うかと思っていたが、逆に安定した。
詩音にとって、伏黒はこの世で最も邪魔だったはずだ。最愛の妹を誑かす憎き相手。
けれど、伏黒は詩音の想いを尊重し、その存在を認めた。
自分よりも詞織を愛する者だと。
「安定したから余計に、君は詩音に任せれば大丈夫だと、そう思っている」
「ち、違……」
「違うと、本当にそう言い切れるの? 実際、君がやっているのはそういうことだよ」
グッと言葉に詰まった。
言い返せなかった。
どう取り繕ったところで、星也の言う通りだ。
「詞織。本当はこういう言い方は嫌いだけど、はっきり言うよ」
自分と同じ夜色の瞳が静かにこちらを見てくる。
「――詩音は、君が思っているほど強くない」
ガンッと頭を殴られたような衝撃だった。
震える唇を噛み締め、詞織は服の裾を強く握る。
「君にも詩音にも言っていなかったけど、詩音には二つの鎖がある。君が持っている鎖と、僕が持っている鎖」
“縛り”を解かない状態ではギリギリ特級呪霊に届かない。
詞織が鎖――“縛り”を解放して第一段階。それでようやく【宿儺の指】六~七本の強さ。
星也が解放して第二段階で、【宿儺の指】十五本分ほど。
「それでも、乙骨君が連れていた【呪いの女王】には届かない」