第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「え、誰⁉ なんかゴメン!」
『ゴメン、兄者ァ! わざとじゃねぇ! わざとじゃねぇんだ‼』
必死に謝る虎杖と血塗に、壊相は『殺す‼』と地を這うような声音で吐き出した。
そこへ、釘崎は壊相の背後を取った。
金槌を振りかぶり、壊相へ殴りかかる。後頭部を殴りつけられながらも、壊相は鬼のような形相で釘崎を睨みつけた。
「じゃあ、なんでンな格好してんだよ」
『ムレるんだよ』
――【蝕爛腐(しょくらんふ)術 極ノ番――翅王(しおう)】
壊相の背中から赤黒い大きな蝶の翅が現れる。
『バチ殺し‼』
その場にいる全員を睨みつけ、彼は怒りに顔を歪めた。
赤黒い翅から雫が滴り落ちると、岩がジュゥゥッと溶ける。
「岩が溶けた⁉︎」
「当たったら終わり」
「詞織、釘崎、順平! あの血、触んなよ‼」
「分かってるわよ!」
ザワザワとざわめきながら、壊相の身体が宙に浮いた。そして、翅を大きくばたつかせる。
『走りなさい。背を向けて』
翅から撃ち出される血液が、矢のように飛び交い、詞織たちを襲う。どうにか攻撃を躱し、森の中へと逃げ込んだ。
「オマエら、もっとスピード出せるか⁉」
「無! 理!」
「僕も、避けながらはしんどい! もともとインドア派で足遅いし!」
そんな話をしながらも、血の矢は雨のように降り注いでくる。