第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「な、なに、この気配……⁉︎」
「【宿儺の指】が領域の外に出たってこと……?」
順平と釘崎に、詞織は何も言えなかった。
領域が解けたということは、伏黒が呪霊を祓った可能性が高い。
それは喜ばしいことだが……無傷で済むわけがない。伏黒は無事なのか?
ケガならまだいい。もしかして、相討ちしたなんてこと……。
無意識にカタカタと身体が震えた。
「神ノ原さ……」
名前を呼ばれたような気がしたが、すぐに意識が逸れる。
ダンッと地面を蹴り、壊相な走り出したのだ。
それも正面をこちらに向けた、奇妙な走り方。
『失言。私が話したことは忘れて下さい』
「まさか、【宿儺の指】のところに……⁉︎」
「待て!」
詞織と順平も追いかける。釘崎もその隣に並んだ。
「ナメた走り方しやがって。そんなんで振り切れると思ってんのかよ!」
『……私、自分の背中がコンプレックスでして。警告です。私の背中を見たら、殺しますよ』
低い声でそう言うと、彼はスッと目元を細める。
「あ、詞織! 釘崎に順平も!」
『あ、兄者!』
突然、壊相の背後から虎杖と血塗が現れた。
二人の登場に壊相はピタリと足を止める。身体を震わせながら、怒りの形相で虎杖と血塗を睨みつけた。
『みっ、みっ、みっ、見たなぁあぁ⁉』
「ひっ⁉︎」
「なに、あれ⁉︎」
詞織と順平は揃って息を呑んだ。
壊相の背中には、膿んだような異臭を放ち、血涙を流す不気味な人面があったのだ。