第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
正体不明、出自不明、全国に同じような被呪者がいるらしい。
何も分からないということだけが分かって、津美紀は寝たきりとなった。
あの日のことを、伏黒は忘れないだろう。
泣きじゃくった詞織は部屋から出ず数日 引きこもり、出てきたと思ったら「五条先生に稽古をつけてもらう」としばらく帰って来なかった。
星良は冷静だったが、声や手はどこか震えていた。
それでも気丈に振る舞い、詞織や星也を元気づけながら、あちこちの呪術師に声を掛け、情報を集めようとしていた。
一番 取り乱していたのは星也だった。あれほど取り乱した星也を見たのは、後にも先にもあのときだけだ。
津美紀の名前を呼び、何日も何日も寝ずに解呪の方法を試し、頭を抱え、憔悴しきった表情をしていた。
――『誰かを呪う暇があったら、大切な人のことを考えていたいの』
――『人を許せないのは悪いことじゃないよ。それも恵の優しさでしょう?』
いつも笑って、綺麗事を吐いて……こちらの性根すら肯定する。そんな津美紀も、伏黒が誰かを傷つけると本気で怒った。
伏黒はそれに苛ついた。
事なかれ主義の偽善だと思っていたからだ。
けれど、今はその考えが間違いだと分かっている。
伏黒が助ける人間を選ぶように、彼女も自分を選んで心配してくれていたのだ。
――悪かったよ。ガキだったんだ。
――謝るからさ、さっさと起きろよ、バカ姉貴。
* * *