第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
「気持ち悪ィ」
呟くように言うと、背後からいちごオレのパックが飛んできて、後頭部に直撃する。衝撃で中身が溢れ、甘ったるい液体を頭から被ることとなった。
「…………」
「あ、ゴメン……中身が出るとは……」
ムカついて睨みつけて、はぁ…と重たいため息を吐く。
そこへ、「メグ」という呼び声に心臓が跳ねた。
「詞織、オマエ……」
軽く息を切らしながら、指定のジャージを着た詞織が駆け寄ってくる。
「詞織、もう大丈夫なの?」
津美紀が心配そうに詞織の腫れた頬を撫でると、少女は「ヘーキ」と短く答え、伏黒に視線を戻した。
そして、伏黒の腕を掴み、申し訳なさそうに眉を下げて見上げてくる。
「メグがケンカしたって……ごめんなさい。また、わたしのせいだよね……」
――浦見東中学二年 神ノ原 詞織
無意識に彼女の頬に触れようとして……触れずにギュッと手を握り込んだ。触れれば抱きしめたくなってしまう。
「別に。ムカついただけだ」
腕を振り払い、背中を向ける。
胸が痛い。苦しい。
こんなに近くにいるのに、手に入れることができない。
「恵。誰かを守るための暴力は、その誰かを悲しませることにもなるって……分かってるよね?」
詞織の肩を抱き、津美紀は言葉を重ねた。
「待って、津美紀。メグを責めないで。メグは悪くない。弱いわたしが悪い」
違う、と言ってやりたかったが、妙な苛立ちがそれをさせてくれない。