第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
伏黒は悪人が嫌いだ。
更地みたいな想像力と感受性で、一丁前に息をする。
伏黒は善人が苦手だ。
そんな悪人を許してしまう。許すことを拡張高く捉えてる。
詞織も、星也も、星良も善人だ。
――「メグ、いつもごめんね……わたしのせいで……」
そうやって申し訳なさそうに謝る詞織は、理不尽を見て見ぬふりできない。
毎度 自分からその渦中に飛び込んでいく。それで何度 痛い目に遭っても止めない。
――「人を助けるためなら無茶だってするし、周りから非難されるような卑怯な手段だって使う。躊躇いなんてないよ。たったそれだけで助けられるなら安いものだ」
そう言って、星也は善人も悪人も等しく助ける。
けれど、自分の善行が全ての人間にとって善いことだとは考えていない。
自己満足のための救済。そのためなら必要悪も一つの手段と考えている。
――「できることとできないことは、人それぞれでしょ。あたしにできることはやるわ。でも、できないことはやらない。過信した先で誰かを巻き込んじゃったら、申し訳ないもの」
そんな風に、星良は割り切った考え方をする。
自分の手が届く範囲で人を助け、及ばない分は他人の手を借り、それでも足りないときは諦める。
自分の命は懸けない。悲しむ人間がいることを分かっているから。非情だが合理的な考え方だ。
同じなのは三人とも、自分には自分の、人には人の考え方や行動があり、必要以上に干渉しないこと。
だから、伏黒が他人から搾取することしかできないクズを殴っても、詞織を助けるために喧嘩をしても、心配はするが、肯定も否定もしない。その距離感が心地よかった。
そんな中で、津美紀は典型的な善人だ。
悪すら許し、“良き者であれ”と強要してくる。
吐き気がする。