第4章 決意へのマーチ【秘匿死刑】
「私情です」
詞織もコクリと頷く。
「なんとかして。わたしを助けてくれた五条先生ならできるでしょう?」
「なんとかして下さい。俺を助けた五条先生ならできるでしょう?」
伏黒 恵は、御三家の一角である禪院家の血を引いており、相伝の術式である【十種影法術(とくさかげほうじゅつ)】を使用できる。
小学一年の頃、才能ある呪術師を求める禪院家に多額の資金と引き換えに伏黒を売ろうとした父親から、五条が救ってくれた。将来、呪術師となることを条件に。
その日から、伏黒の呪術師としての人生が始まった。
詞織も、特級過呪怨霊に取り憑かれて死刑になるはずだったところを、五条に助けてもらっている。
御三家の一角――五条家出身。
そのうえ、誰もが認める『最強』の称号を持つ五条は、呪術界において、上層部すら黙らせるほどに強い発言力を持つ。
無茶を言っている自覚はある。
それでも、この五条 悟という人物が、無茶を押し通すだけの力を持っていると確信していた。
声を揃える伏黒たちに、五条は「クックックッ」と喉の奥で愉しそうに笑う。
「カワイイ生徒たちの頼みだ。任せなさい!」
ビシッと親指を立てる"最強"の担任に、詞織がパッと伏黒を振り向き、珍しく弾けるような笑みを浮かべた。
カワ……ッ!
瞬間、柔らかく甘い香りが鼻腔をくすぐる。
一拍遅れて、詞織が自分の首に腕を回して抱きついてきたのだと気づいた。
「良かった……!」
ギュッとしがみつかれて身体が痛い。
それに、詞織の温もりに心臓がギュッと締めつけられて、息が苦しくなった。
それでも、離したくないと思ってしまう自分は、きっと重症だ。