第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
気配が大きすぎるモノ、息を潜めているモノ、すでに呪霊に取り込まれているモノ――これは『共振』だ。
取り込まれた呪霊の中で、力を抑えていた【宿儺の指】が、六月の虎杖の受肉をキッカケに呪力を解放した。
少年院で遭遇した特級呪霊と見た目は同じだが、アレよりも数段 強い。
呪霊が呪力を放ってくる。刀で受け止めようとしたが、それは音を立てて折れ、伏黒の頭を掠めた。
正面を見据えるも、目の前から呪霊が消える。どこに――と思う間もなく背後に気配を感じた。
呪力を拳に纏わせて振るおうとする呪霊の前で、【玉犬】が伏黒の身体を退避させてくれる。
「――【鵺】」
両手で翼の形を作る。けれど、【鵺】が現れるよりも早く、呪霊の拳が眼前に迫った。
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バチッと火花が爆ぜ、伏黒の身体は弾き飛ばされた。
「はーい。また僕の勝ちー」
おどけた口調で言って、こちらを見下ろしてくる五条に、イラッとする。
「珍しいよね。恵が僕に稽古を頼むなんて。悠仁に追い越されて焦った? 強くなきゃ、詞織のことも守れないしね」
「まぁ、背に腹は代えられませんから。星也さんは詞織に取られたんで」
「そんなに嫌? 僕に頼るの」
そう。星也もタイミングよく帰って来ていたが、詞織が稽古をつけて欲しいと連れて行ってしまった。今回の交流会で、詞織にも思うところがあるのだろう。
そうだ。強くならなければ、何も守れない。
詞織を守ることも、津美紀を助けることも、星也や星良に追いつくことも。
「でもさ、守りたいって思うのは勝手だけど、詞織も別に弱くないでしょ」
「別に、弱いから守りたいって思ってるわけじゃないですよ」
強いとか弱いとかいう話ではない。
一人の男として、惚れた女を守りたい。
そう思うのは変じゃないだろ。
詞織がいつだって笑っていられるように。
傷ついてほしくないし、怪我をしてほしくない。
そのために力がいるのだ。
グッと拳を握る伏黒に、五条は「ま、何だっていいけど」としゃがんで目線を合わせる。