第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
モグラ叩き――言い得て妙だな。
あっちこっちに次々と頭を出す呪霊を伏黒は追いかけた。刀を構える――と、そのまま後ろを振り返る。
「裏の取り方が単純なんだよ」
目の前に頭を出したのはフェイント。
すぐに気づき、伏黒はザッと斬りつける。けれど、また別の場所から新たに頭を出し、、呪霊はニタァと笑った。
「言ったろ。単純だって」
伏黒の命令によって【玉犬 渾】が飛び掛かり、鋭い爪で呪霊を引き裂く。引き裂かれた呪霊がジュワッと溶け始め、フジツボのような穴からは轟音を立てて風が噴き出した。
伏黒はフーッと大きく息を吐き出す。
津美紀はこれで大丈夫だ。
あとは、さっき割って入ってきた呪霊を――……。
突如として現れた異変に、伏黒は目を見開く。視線の先で、天井から薄い岩が積み重なり、突き出していた。
まさか生き残り⁉
出て来ていた呪霊は全て祓ったはず。
先ほどのが本体じゃないのか⁉
領域も閉じない……何が起こっている⁉︎
薄い岩から奇妙な液体がぬるぬると零しながら、ズリュッと少しずつ開いていく。そして、伏黒の目の前で、ドチャッとソレは現れた。手足の長い、細い人型のシルエット。
呪霊の行動パターンに合理性を求め過ぎてはいけない。
それでも、伏黒はずっと引っかかっていた。
なぜ、今になってマーキングした人間の呪殺を始めたのか。
一人目の呪殺は六月――それは、虎杖が指を喰らい、【両面宿儺】が受肉したのと同じタイミング。