第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
「恵はさぁ、実力も潜在能力(ポテンシャル)も悠仁と遜色ないと思ってんだよね。後は意識の問題だと思うよ。恵、本気の出し方知らないでしょ」
「は?」と伏黒は思わず顔を引き攣らせた。
「俺が本気でやってないって言うんですか?」
「やってないんじゃなくて、できてないんだよ。例えばさぁ、この前の野球――なんで送りバントしたの?」
突然の問いに何も答えることができない。
なぜ、今 その話題が出てくるのか分からなかったが、五条の表情は決してからかっているわけでもなかった。
「自分がアウトになっても、野薔薇の塁を進めたかった? それはご立派。でも、悠仁や僕なら、常にホームランを狙う」
バントが悪いと言っているわけではない。野球は団体競技。それぞれに役割がある。
でも、呪術師はあくまで個人競技だ。
そう、五条は続ける。
「他の術師との連携は大事でしょ」
「まぁね。でも、周りに味方が何人いようと、死ぬときは独りだよ。恵は自他を過小評価した材料でしか組み立てができない。少し未来の強くなった自分を想像できない。君の“奥の手”のせいかな。最悪、自分が死ねば全て解決できると思ってる」
――それじゃ、僕どころか星也にも星良にもなれないよ。
違う、と否定することはできなかった。
自分が死んで解決できるならと思って戦っているわけではない。
それでも、もしそれが必要なら躊躇わずに使うと決めているのも事実だ。
何かあれば……例えばそれが詞織を守るためなら、死んだっていい。そうすれば、詩音と同レベルの存在になれる。
違う。アイツは【呪い】だ。
あんなものになりたいわけじゃない。
黙り込んだ伏黒の額を、五条は指先で小突く。
「恵、『死んで勝つ』と『死んで“も”勝つ』は全然違うよ。本気でやれ。もっと欲張れ」
――じゃないと、大事なものなんて一つも守れないよ。
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