第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
「【芻霊呪法――共鳴り】」
釘崎がガンッと瓦礫を五寸釘で打ちつける。悲鳴があちこちで上がり、空間が震えた。呪霊の頭があっちこっちにシュッシュッと現れる。
「【澱月】‼」
順平も後れを取らぬよう【澱月】を呼んだ。背後に現れた【澱月】が触手を薙ぎ払い、呪霊が現れたフジツボのような穴を砕く。
だが、別の場所から顔を覗かせた呪霊が、『ナァァァァ』とこちらを嘲笑うような奇声を上げた。
その真横から、伏黒が影から黒刀を取り出し、斬りかかる。音を立てて穴が砕けるも、呪霊はまた別の場所から現れた。
「何体いるんだ!」
「気にすることないわ。モグラ叩きの要領でいいんでしょ」
「あぁ、そのまま出口を潰し続けてくれ。多分 反撃はない」
「え、なんで?」
反撃がないのは嬉しいが、全国規模で呪殺を繰り返している呪霊のはずだ。
そう思っての問いに、伏黒も釘崎も呪霊に視線を固定したまま口を開く。
「限定的とはいえ、術式範囲が広い分、本体に攻撃能力がないってこと?」
「あくまで多分な」
なるほど。術式の範囲や被害者数、領域の全てが本体から引き算されている。結果、本体に大した攻撃力はないのか。
これはラッキーだ。自分一人でどうこうは無理かもしれないが、ここには伏黒や釘崎もいる。
確実に祓えるだろうし、これで伏黒の姉も助かる。
その後は虎杖と詞織が相手をしている、なんかよく分からないけど突然やってきたあの呪霊を祓えば、任務は終わりだ。
不意に、呪霊の領域の壁から手が現れ、釘崎の腕が掴まれた。