第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
『なんだぁ? 遊んでくれるのかぁ?』
そう言うや否や、血塗の顔が大きく膨らみ、血を吐き出してきた。
「悠仁、わたしの後ろに! ――【夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらん】!」
詞織に名前を呼ばれ、言われた通りに彼女の後ろへ身を隠す。月の光が眩く輝き、吐き出された血液を弾き飛ばした。血液が岩にかかり、ジュウッと音を立てる。
あの血は毒か何かだろうか。
だが、今は考えても仕方がない。
それを確認し、虎杖はすぐに飛び出す。異形の頭に蹴りを食らわせる――と、腕を掴まれた。
『つかまえ、た……』
ガッと両足を揃え、虎杖は血塗の顔面に蹴りを入れ、その反動で拘束から逃れる。
「詞織!」
「【天雲に 近く光りて 鳴る神の 見れば畏し 見ねば悲しも】」
バチバチッと稲妻が爆ぜ、血塗の身体を切り裂いた。跳ねた血飛沫が地面を濡らす。
『なんだぁ? 強いなぁ……楽しくないなぁ……』
血を流す虚ろな眼窩が、ジッと虎杖と詞織に向けられた。
* * *