第28章 アンショーソに掻き立てられる【起首雷同】
詞織はホテルの部屋でずっと伏黒の帰りを待っていた。
部屋は虎杖、伏黒、順平の男子部屋と、自分と釘崎の女子部屋、補助監督の新田が泊まる三部屋をとってある。
けれど、連絡も何もない。
部屋に戻っていないことは、虎杖に確認している。
耳の奥がうるさい。“イヤな予感”だ。
耳を塞いでもずっと響いている。
これは津美紀のもの? それとも伏黒のもの?
先ほどの、別れ際のキス。
あんな表情の彼は初めて見た。
まるで、もう二度と会えないとでも言うような、胸が締め上げられるほど切ない顔。
隣では釘崎が寝ている。
一晩中起きていたことと、次に任務が入っていないこともあって、新田からはしばらく休んでおくように言われている。
「メグ、一人にしないで……」
……言ったじゃない。
――「俺たちは何だかんだ腐れ縁だ。どうせ、死ぬときだって一緒だろ」
……言ったじゃない。
――「呪術師として、いつ死ぬかは分からないけど……だからこそ、一分でも一秒でも無駄にしたくない。最期の瞬間だって――俺はオマエを隣に感じていたいって思う」
伏黒が戻らないことで、高専へ帰る時間は押している。新田も連絡がつかないと言っていた。
分かっている。彼がどこに行ったのかなんて。
――なんで、連れて行ってくれなかったの?
身支度を整え、釘崎を起こさないよう、静かに部屋のドアを開ける――と、そこには虎杖と順平が立っていた。