第27章 思惑絡むコンチェルト【起首雷同】
「こういう呪物ってさぁ、なんで壊さないの?」
真人はそう言って、ゴトッと小さな容器を床に三つ並べた。中には未熟な胎児に似たものが容器漬けにされているが、どこか歪な形状をしている。
「壊せないんだよ、特級ともなるとね」
部屋の戸口にもたれかかり、夏油が静かな声音で答えをもたらす。
「生命を止め、他に害をなさないという“縛り”で存在を保証するんだ」
「【宿儺の指】は有害じゃんか」
「アレは特別。呪物と成って、その上 二〇に分割してもなお、時を経て呪いを寄せる化け物だよ。それゆえに、【器】を選ぶ」
真人は「ふーん」とあまり関心がなさそうに相槌を打った。
「じゃあ…… 【呪胎九相図(コイツ)】は誰でもいいわけだ」
真人は壁に視線を向ける。そこには、張りつけにされた男がもがいていた。
運悪く真人たちに掴まり、連れ攫われてしまったのだ。
しかも、選定理由は特になく、本当に運が悪かっただけである。
「おいっ! アンタ! 金……金⁉ オレ! そんな持ってないけどさっ! サラ金とかなんかあんだろ⁉」
自分を通り越し、夏油に向かって命乞いをする男に、真人は大きくため息を吐く。
「大丈夫かなぁ? この状況で俺が見えてないとか、マジで才能ないよ」
この異常な状況であれば、呪霊を視認できてもいいはずなのだが。
「はい、あーん」
真人は容器の中身を取り出し、男の顎を掴むと、容器の中身を無理やりこじ開けた口の中へと突っ込んだ。
「おっ、おっ! おおぉぉぉおおぉぉ――――……ッ!」
男はドロドロと目から血を流し、目玉が飛び出そうなほど見開いた。
ビクビクと震える身体が音を立てて膨らみ、青い肌を持った呪霊へと変貌していく。
ズングリした体躯、細長い手足、人面の虚ろな眼窩からは絶え間なく血涙が流れている。さらに、その人面の下にある巨大な口を持っていた。
「やぁ、起き抜けに申し訳ないんだけどさ」
――ちょっとお遣いに行って来てくんない?
真人はニヤリと口角を上げ、不気味な笑みを浮かべた。
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