第56章 伸ばした手に掴むデテルミナート【渋谷事変】
『魂の質が上がった。変わったね、順平。俺は前の従順な方が好きだったけど』
「僕は僕が嫌いだ。でも、前の自分より、今の自分の方が好きだよ……少しだけね」
『いいね。殺り甲斐あるじゃん』
真人が戦闘態勢に入る。順平も深く息を吸い込み、神経を研ぎ澄ませた。
「釘崎さん……アイツの術式……」
「魂うんぬん と、手に触れるなって話でしょ。覚えてるわよ」
真人に聞こえないように、小声でやり取りする。
真人の術式は素手で触れることで発動し、魂の形を変えることで相手を改造するものだ。改造した手では意味がない分、間合いは短い。
だが、ヤツは自身の肉体も改造できる。油断はできない。
――思い出せ。
あのとき――八十八橋での戦いで掴んだ、呪力の核心を!
「【澱月】!」
【澱月】の鋭い触手が真人を狙った。その速さに真人が目を瞠り、素早く身を翻す。そこへ釘崎が勢いよく釘を打ち出した。その釘は真人から外れ、彼の頭上の看板に命中した。
『ノーコン……』
呆れたように呟く真人の頭上で看板がグラリッと揺れ、ゴドンッと轟音を立てて落ちる。
釘崎の意図に気づき、順平は駆け出し、その看板に蹴りを放った。ゴッと看板を受け止めた真人に、釘崎が「吉野!」と合図を出す。
――キンキンッ!
看板を蹴り、その反動で身を引くと、その真横を五寸釘が駆け抜けた。
「――【簪】」
パチッと釘崎が指を鳴らすと同時に釘へ呪力が流され、バスバスッと看板ごと真人の額を貫く。
『あははっ、やるね。でも、基本 効かないんだよね。順平なら知ってるはずでしょ? ちゃんと教えてやっといてよ』
額の傷を治しながらニヤニヤと嗤う真人に、もはや順平の心は微塵も揺らがなかった。
* * *