第25章 アレグロに青空を駆け抜ける【呪術甲子園】
「垂水さん」
詞織に連れられ、順平は彼女の背中から垂水を窺い見た。
彼女の呼びかけに、垂水が「ん?」と振り返り、パァッと明るい笑みを浮かべる。
「詞織ちゃん、どうしたの? 伏黒クンからボクに乗り換える気になった?」
「違う」
短く切って捨て、詞織はすぐ後ろを振り返り、順平を示した。
「ジュンペーもあなたと同じ式神使いなの。クラゲの」
「クラゲ?」
彼女の言葉に、垂水は「ふぅん」と気のない相槌を打ち、こちらをしげしげと見てくる。値踏みするような視線に居心地の悪さを感じ、身を小さくさせた。
「あの、神ノ原さん、やっぱりやめた方が……伏黒くんもいい顔しないよ」
「メグが? 別に……少し話を聞くだけ」
たったそれだけで、伏黒の機嫌が悪くなるわけないと思っているのだろうか。
いやいや。
伏黒はたったそれだけで機嫌が悪くなる。
たった三日のつき合いだが、充分に理解している。
自分が詞織の隣にいたり、呼びかけられたり、話したりしているだけでものすごい顔をしているのだから。
それなのに、詞織が好意を抱かれ、熱烈なアプローチをしてくる相手に自ら声をかけるなんて、気分がいいはずもない。
え? 彼女は鈍感なのか?
そんなことを考えていると、垂水は大きなため息を吐いた。