第25章 アレグロに青空を駆け抜ける【呪術甲子園】
グラウンドの外野にある茶席――東京校の夜蛾と京都校の楽巌寺は、生徒たちの野球の試合を観ながら話していた。
「……まだ、虎杖が嫌いですか?」
「好き嫌いの問題ではない。呪術規定に基づけば、虎杖は存在すら許されん」
虎杖が生きているのは五条の我が儘。
たった一人のために集団の規則を歪めてはならない。
それが楽巌寺の意見だ。
「何より、虎杖が生きていることで、その他 大勢が死ぬかもしれん」
【両面宿儺】は、それだけ強い呪いだ。
夜蛾も、楽巌寺の意見が過剰な妄想だなどとは思っていない。
「だが、彼のおかげで救われた命も確かにある。現に今回、東堂と協力し、特級を退けた」
学生に限った話ではない。
彼はこれから多くの後悔を積み重ねる。
あぁすれば良かった、こうして欲しかった。
あぁ言えば良かった、こう言って欲しかった。
虎杖についての判断が正しいかどうか。正直 自分にも分からない。
「……ただ、今は見守りませんか? 私たち大人の後悔は、その後でいい」
静かな沈黙が下りる。
やがて試合が進み、カーンッという軽やかな音ともに、虎杖が場外ホームランを決めた。
その光景を眺めながら一つ大きなため息を吐き、楽巌寺がゆっくりと重々しく口を開く。
「夜蛾、オマエはまず五条をどうにかしろ」
「…………」
その言葉には、さすがの夜蛾も何も言えず、目を逸らすしかなかった――……。
* * *