第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
『あぁ、やはり‼ 光は生(なま)で感じるに限るな‼』
最悪だ。
詞織たちは愕然と目を見開くしかなかった。
最悪だ。最悪の展開だ。
まだ、さっきまでの方が希望があった。
特級呪物――【両面宿儺】が受肉するなんて。
鬱陶しそうに、特級呪物を取り込んだ虎杖――宿儺が、自身の着るパーカーを破り捨てる。
『呪霊の肉などつまらん! 人は! 女はどこだ‼』
どうする? もう、本当にどうしようもない。
伏黒と力を合わせて戦ったところで、先ほどの呪霊の二の舞。
詩音を……詩音なら、どうにかできるのだろうか?
少しだけ、弱気になった心の一部が、そんなことを考え始めると、宿儺が詞織を見つけてニヤリと笑う。
『あぁ……そこにいるではないか』
「ひっ……」
小さく悲鳴を上げて竦み上がる詞織を庇うように、伏黒が前へ出て体勢を低くした。
二人の様子に、宿儺はますます笑みを深くする。
すると、周囲の様子を確認するようにをぐるりと首を巡らせた宿儺は、おもむろに身体の向きを変えた。渡り廊下の屋上の淵に立ち、街を見下ろす。
彼は一瞬だけ驚いた表情を見せ、愉快だと言わんばかりに大声を上げた。
『いい時代になったのだな。女も子どもも、蛆(うじ)のように湧いている。素晴らしい! 鏖殺(おうさつ)だ‼』
ガッと、宿儺の右腕が自身の首を掴む。
それは唐突の出来事で、何の脈絡もない行動だった。
驚いたのは詞織と伏黒だけでなく、宿儺も「あ?」と眉を顰める。