第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「なんで呪霊はあの指を狙ってんだ?」
「喰ってより強い呪力を得るためだ」
こんな状況で何を聞いてくるのか。
困惑する詞織を他所に、伏黒の答えを聞いた虎杖は「なんだ」と言って続ける。
「あるじゃん、全員が助かる方法。俺に"ジュリョク"があればいいんだろ?」
そう言うや否や。虎杖がポケットを漁り、特級呪物である両面宿儺の指を取り出した。そして、あろうことか大きく口を開ける。
「なっ⁉ 馬鹿‼」
「何してるの⁉ 止め――ッ」
二人の制止も虚しく、虎杖はゴクンッと呪物を嚥下した。
正気なのか、この男は。
特級呪物は猛毒だ。絶対に死ぬ。
いや、それ以前の問題。
ミイラ化した人間の指だ。
それを口に含み、あまつさえ呑み込むなんて、狂っているとしか思えない。
何が起きるのかも分からず、詞織も、そして伏黒も、虎杖から目を離すことができなかった。
呆然とする二人の前で、呪霊が虎杖へ向けて突進する。
『おぉぉおおぉぉおおぉぉお――――ッ』
声を上げて迫る呪霊。それに対して、虎杖が大きく右腕を払った。
たった一撃。それだけで、不意を突かれて詞織たち二級呪術師が苦戦していた呪霊をあっさり祓ってしまう。
虎杖の右腕は歪つに変形し、顔には文様が浮かんでいた。
やがて、虎杖が不気味に口角を上げる。
『ケヒッ、ヒヒッ』
大声でゲラゲラと虎杖が笑い出し、夜の冷たい空気を震わせ、恐怖へと塗り替えた。ゲラゲラ、ゲラゲラと笑う虎杖の目元には、さらに一対の目が増えている。