第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「……詞織、まだ戦(ヤ)れるか?」
「当たり前。それより、メグの方が限界じゃない?」
「まさか」
不敵に笑いながら、軽口の応酬をする。けれど、コンディションは最悪。
笑っていられるほど、状況は良くなかった。
もしかしたら、二人ともここで死ぬかもしれない。
せめて、自分が領域展開を完全に習得していたら。
術式を付与した生得領域――自分の心の中――を呪力で具現化する呪術。莫大な呪力と引き換えに、絶対の勝利を約束する奥義。
けれど、詞織の領域展開は未熟で、形が安定していない。そのうえ、成功率も低く、発動自体が一種の賭けだ。
それならば、確実な呪術を選んだ方が賢いだろう。
手が震えるのは何故だろう。身体が……心が凍えそうだ。
ギュッと唇を噛み締めると、不意に震える手が温もりで包まれた。
「え……?」
振り向くと、伏黒が珍しく微笑を浮かべてこちらを見ている。
「メ、グ……?」
「心配しなくても、オマエ一人で死なせねぇよ。俺たちは何だかんだ腐れ縁だ。どうせ、死ぬときだって一緒だろ」
――死ぬときは、一緒。
たったその一言が、心の中で渦巻いていた恐怖や不安、悲嘆を一瞬で吹き飛ばした。
あぁ……そっか。一人じゃないんだ。
死ぬときも……メグが一緒にいてくれるのなら――……。
詞織は伏黒の手を握り返し、力強く頷く。
伏黒が呪霊へ視線を移したのに倣い、詞織も夜色の視線を呪霊に向けた。
「オマエの呪術でアイツを拘束しろ。そしたら、俺が鵺で叩く」
「分かっ……」
「なぁ」
分かった、と頷こうとする詞織を遮って、虎杖が詞織たちに呼びかける。