第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「今 帰ったら、夢見が悪ぃだろ。それにな――……」
何か大切なものを反芻するように呼吸を整えると、虎杖は挑むように呪霊を見据え、口角を上げる。
「……――こっちはこっちで、面倒くせぇ【呪い】が掛かってんだわ」
何の話をしているかは分からなかったが、虎杖からは呪い的なものは感じられない。それならば、深く詮索する必要はないだろう。
そう考えて、彼の言葉は意識から外す。
素早く伸びてきた呪霊の腕を、虎杖は軽い身のこなしで避け、鋭い蹴りを入れた。けれど、虎杖の攻撃に呪霊は怯まず、三本目の腕が虎杖を襲う。
虎杖は為す術なく詞織たちの方へと殴り飛ばされた。
当然だ。どれほど彼が人間離れした力を持っていたとしても――……。
「あなたじゃアレは祓えない。呪霊は呪術でしか祓えないから」
「……それ、早く言ってくれない?」
フラつく身体を叱咤しながら立ち上がる詞織に、虎杖が頭から血を流しながら恨みがましい目を向けてくる。
だが、そちらが勝手に始めたこと、と少女は心の中で自分を正当化した。
「だから、何度も逃げろって言っただろ」
伏黒も立ち上がり、身を低くして臨戦体勢をとる。
「今、あの二人を抱えて逃げられんのはオマエだけだ。さっさとしろ。このままだと、全員死ぬぞ」
「呪力のないあなたがいても、この勝負に勝てるわけじゃない。あの先輩たちを死なせたくないなら、早くして」
知っている人間くらい、正しく死なせたい。
そう言っていた虎杖を思い出す。