第21章 唐突に現れたディソナンス【京都校交流会―団体戦―〜呪具】
「《森も海もそれも、もう我慢ならぬと泣いています。これ以上、人間との共存は不可能です。星に優しい人間がいることは彼らも知っています。しかし、その慈愛がそれだけ足しになろうか》」
――彼らはただ“時間”を欲している。
そう言って、呪霊が一歩迫ってきた。
呪霊の言葉の内容――そこから察せられるのは、目の前の呪霊がただの呪霊ではないこと。
人間の怨念や憎悪から生まれたものではなく、もっと計り知れないほど巨大な意思から生まれた存在の可能性。
「《“時間”さえあれば、星はまた青く輝く。人間のいない“時間”。死して賢者となりなさい》」
圧倒的な呪力が場を支配し、呪霊の背後から樹木が一斉に地面を突き破って現れ、伏黒たちへ勢いよく伸びた。
樹木から逃れるべく、伏黒たち三人はとにかく走る。一秒でも一瞬でも早く足を動かした。
ひとまず行動範囲が制限される屋内へ。こちらの逃げる場所を狭めることになるが、相手の動きも制限されるはず。
「大丈夫ですか、狗巻先輩」
「しゃけ」
狗巻を気遣っていると、加茂が「来るぞ!」と注意を促してきた。
足を止め、呪霊へ振り返る。
木の枝を丸めて作ったような毬が現れ、そこから刃のような先端が伸びた。迫る刃に、狗巻が口を開く。
「【 止 ま れ 】」
ピタッと樹木の毬が静止し隙に、加茂が両手を合わせた。
「【百斂(びゃくれん)――穿血(せんけつ)】」
加圧して圧縮された血液が呪力で強化されて放たれる。
音速を超えて放たれた血液は呪霊の顔面を穿った。
パラッと砕けた呪霊の顔面の樹木に、伏黒は走りながら瞠目する。
先ほどはかすり傷すらつけられなかった呪霊に傷を負わせた。自分との戦いでは全く本気ではなかったのだ。