第21章 唐突に現れたディソナンス【京都校交流会―団体戦―〜呪具】
「歌姫、お爺ちゃん。先に行って。この帳、“五条 悟”の侵入を拒む代わりに、その他“全ての者”が出入り可能な結界だ」
「アンタを拒絶するのと引き換えに、私たちは拒絶できなくなったってこと? 確かに足し引きの辻褄は合うけど……」
帳とは、外から術師たちを見えなくして呪霊をあぶりだしていく結界術の一種。
帳を下さないまま呪霊と対峙すると、呪霊を認識できない一般人は意味が分からず大騒動になる可能性が高い。
混乱を防ぐために帳が必要になるのだと、歌姫が説明してくれた。
「それって、呪術師にしか使えないんですか?」
「向き不向きはあるけど、ある程度 呪力があれば使えるよ。もちろん、呪霊もね」
呪霊と言われて、真人の姿が過ぎる。
もしかして、この騒動の裏にも……?
「帳は呪霊にもメリットがある。呪力のある人間には、帳は黒いドームにしか見えない。つまり、中の様子が分からないんだ。それに、術式を付与して特定の人間だけを帳の中に入れないようにすれば、中にいる味方の状態が見えず、フォローもできない」
今回みたいにね、と五条が付け加える。
「授業はそれくらいにしなさい」
そう言って、歌姫が五条に向き直った。
「相手は呪霊と行動する呪詛師の可能性が高い。それもかなりの手練れよ」
「分かってるよ。しかも、こっちの情報も把握してるみたいだ。ほら、行った行った。あ、順平は僕と残ってね」
「え……いいんですか?」
歌姫たちと行ったところでやれることはないと思うが、残ったところで結局は足手まとい。
それなら、ケガをしているかもしれない虎杖たちの方に行って肩を貸すなり何なりした方が役に立つような気もする。
そんな表情が出ていたのか。五条はニヤリと不敵に口角を上げる。
「言ったでしょ。僕の後ろが一番安全なんだって。歌姫たちを信用してないわけじゃないけど、目の届くところにいてくれた方が安心だから」
そう言って、五条は歌姫たちを帳の中へと促した。歌姫、そしてずっと沈黙を守っていた楽巌寺が黒い幕の中へ入るのを見送る。
「呪詛師たちは何が目的なんでしょう?」
「さぁね。でも一つ確実なことがある」
―― 一人でも死んだら僕らの負けだ。
五条の言葉に、順平はゴクリと緊張から唾を呑み込んだ。
* * *