第20章 それは笑えないスケルツォ【京都姉妹校交流会―団体戦―】
メカ丸の近くに落ちていた携帯から三輪に電話を掛け、狗巻は彼女を眠らせた。
ふと傍らを見ると、そこには伏黒の玉犬がこちらを見ている。
狗巻は柔らかな頭を一撫ですると、「【 戻 れ 】」と呪言を発し、玉犬を伏黒へ返した。口元まで覆う上着のジッパーを上げ、戦闘態勢を解く。
「…………っ⁉︎」
唐突に現れた圧倒的な気配。空気を塗り替えてやってきた存在に、狗巻は再び上着のジッパーを下げた。口元の"蛇の目"、舌には"牙"の呪印が晒される。
「こんぶ……」
慎重に様子を窺いつつ足音に耳を澄ます。
大きな口から長い舌を垂らし、落ち武者の骸骨のような頭の呪霊――……が、唐突に虚ろな眼下をぐるりと反転させた。
「……‼」
現れた呪霊の首がボールのように地面に跳ね、ジュッと音を立てて塵となる。
次いで木々の間を縫って現れたのは、目から樹木を伸ばし、歯茎をむき出しにした巨大な呪霊。
無惨に切り落とされた呪霊は、残穢(ざんえ)から二級よりも上――おそらく準一級の実力はあっただろう。その呪霊の首を簡単に刎ねたことを考えると、目の前の呪霊は一級か、もしかしたら特級クラス。
左腕は布のようなものでくるまれている。成人男性よりも二回りは大きな体躯だが、二本足で歩けるところを見ると、体型だけは人間に近い。
『……――――――……』
脳内に、意味不明で理解できない言語が流れ込んでくる。
「しゃけ。いくら。明太子」
目の前のこの呪霊はどこから来たのか?
交流会の趣旨と関係があるのかは分からない。
それでも、この呪霊は危険だ。
* * *